|トップページ| |目次|
水高
男と女と鬼






1. シゲイラ   |づもな||戻る|
 昔胆沢城の西の方に、お屋敷様と呼ばれた、旦那様が居た。家督のほかに、次々と男ばかりが生まれていたところに、願ってもない女の子が生まれた。
 モイラ(茂井羅)と名付けて育てたが、生まれた時から、醜かった女の子は、年頃になると、ますます醜くなるし、モイラも嫁にはなれないと覚悟した。それからというもの読み書き、外の仕事、針を持っては良しと、ずば抜けていた。
 その噂を聞いて、西山(焼石岳の裾)の冠者が嫁に欲しいとなった。女房にしては立派なものだが、あまりにも醜いせいで、ほどなく離縁された。しかしモイラは、実家へ戻らず、若柳(胆沢町の地名)付近に一人で暮らしていた。
 その頃は、田を作ろうとしても、水利が悪く、皆、大変困っていた。長雨が読いて、モイラも仕方なく庭先を見ていたら、いく筋にも流れる水を見て、「これだ!」と思った。
 次の日から、モイラは一人で、唐鍬を振り、堰を掘って、胆沢川の水を引いてきた。初めは馬鹿にしていた村の人達も、驚いてばかりもいられないと、モイラに手伝って、堰の水を分けて貰った。モイラの指図で、網の目のように、堰が走って、田がどんどん広がっていった。
 モイラ様のおかげだと言うことで、いつの間にか、「シゲイラ堰」と呼ぶようになった。

2. 人柱   |づもな||戻る|
 今から三百年以上も前の事だ。開田の用水にしようと、千貫石に堤を造った。ところが、いくら造っても造っても、大雨が降れば、いつも破れて、どうにもならなかった。
 「どうしたらいいか」と、寄り合いでもまとまらず、霊媒師に拝んでもらうことにした。すると霊媒師は、「牛と生娘を土手に埋めれば、堤は壊れない」と言う。
 それから村の衆連は八方探したが、牛はいいとして、人柱になる生娘は、なかなかいなかった。そうこうしていると、嫁に行きたかったが、思いのほか醜い娘で、家の近所ではなかなか結婚できないという娘が、釜石にいたそうだ。
 「良い所の嫁にお世話する」と、親には銭を置いて、連れてきた。普請した土手に穴を掘って、その娘は石の唐櫃に入れ、牛と一緒に埋めてしまった。なんと可哀想なことをしたものだ。
 それでも先ず、その娘と牛のおかげでか、それからというもの、どんな大雨が降っても、堤は壊れなかった。
 ところがそれから何年かして、仙台の普請役人の家で、毎晩、「暗いぞー、暗いよー」と、どこからか聞こえて来た。
そのうちに、空をひっくり返したような、七日七夜の雨が降って、堤は破れ、青光りが二十尋(一尋は釣一・五m)も、東の方へ飛んだ。
娘の名前は「お石」と言った。

3. 菜葉湯   |づもな||戻る|
 昔の台所には、流し台などなかった。だから、ご飯を食べる時は、一人一人に「箱膳」というのがあって、自分の茶碗やお椀は、その箱に納めて、戸棚などに、置いていたものだ。
 一汁一菜といっても、最後には必ず菜っ葉漬け一切れとか、たくあん漬けの一切れを残して、ご馳走さんをする。食べ終わったら、茶碗に、白湯を貰い、残しておいた漬物で、碗の中を奇麗に拭って、箱膳にしまう。そうすれば碗を洗うこともなく、次にご飯を食べる時も、それに盛ってもらって食べるわけだ。
 菜っ葉漬けは、碗を洗うだけではなく、早く仕事に取りかからなければならないから、熱い湯に入れて飲めば、ぬるくなるという、なかなかうまいことを考えたものだ。
 少し愚かな総領も、どんな嫁でもいいからと、やっとのことで嫁をもらった。雪の降る日に、新米を持って、嫁の実家へ、初泊まりに行った。
 いくら愚かな婿でも、可愛い娘の連れ合いだと思って、姑も、大変気遣いした。「寒いところをよく来たね。ご飯を食べる前に、新しく風呂を沸かしたから、先ず、ひと風呂どうぞ」と言われて、婿殿は湯加減もみずに、いきなり、風呂に入った。
 婿は、「アッチッチー 熱い! 母ちゃん、菜っ葉くれ、菜っ葉くれ!」と叫んだら、「なんと、ご飯を食べる前に、菜っ葉ですか?」と、姑が言った。

4. 法事餅   |づもな||戻る|
 大変仲のいい夫婦がいた。「ねえ、今夜も、餅搗き (隠語)しましょう」と、いつもその調子だったせいでか、さっぱり子供もできなかった。
 そうこうしているうちに、村に赤痢が流行して、妻が、伝染病にかかってしまった。夫は、一所懸命に看病した。それでもとうとう、医者にも見放されてしまった。死ぬ前に、妻は、夫の手を握って言った。「私たちは、どこまでも一緒でしょう? 私が死んでも、後妻など貰わないで下さい!」
 夫だって、まだ血気盛んなので、妻の遺言だって、一年も経てばその通りだ。三回忌にもならぬ内に、仲人をする人があって、出戻りだが、子供も無いしと幾らか若い後妻を貰った。
 先妻の三回忌で、法事をしようと、関係者に集まって貰った。和尚がお経を始めて、お焼香をしようとしたら、仏壇の位牌が飛んできて、夫の額に、ビタっとくっついて、取れなくなった。
 皆で引っ張っても、押しやっても、取れなかった。すると和尚が、「お前達は、餅搗きが好きだった。仏様に、餅でも搗いてあげたらどうか」と、言った。
 それから俄に餅搗きを始め、餅のお膳をあげたら、額の位牌が、ポロっと落ちた。ご法事に餅を使うようになったのは、そんなわけだった。

5. 初泊り   |づもな||戻る|
 少しお釣りのくる男(まともでない)が、やっと嫁をもらって、嫁の家に、初泊まり(里帰り)で行くことになった。
 嫁の家に持っていけと、たくさん土産を持たせられて、嫁の実家に来た。いくら、お釣りのくるような男でも、家を出る時教えられた通り、なんとか挨拶した。
 その晩、娘の婿が初泊まりに来たというんで、嫁の親戚達が集まって、酒もご馳走も、食べ切れないほど出て、やっと寝室へ、案内された。すると、床の上に、見慣れぬ枕があった。「これは、何というものだ?」と、婿が嫁に聞いたところ、ボーっとしていた嫁は、今まで名前を呼ばれたことがなかったので、自分の名前を聞かれたものと勘違いして、「福です」と答えた。
 翌朝姑から、「ゆっくり眠れたか?」と聞かれた。すると婿殿は、軽率に語った。
 「やーいや、福には参ってしまった。なにしろ初めてなもので、しようと思えば、はずれて、横に逃げる。やっと戻して、あてがおうとすると、またぐらりと逃げる。それでもなんとか押さえつけ、明け方になってから、やっと、壁に押しつけ、乗りました」と言った。
 なんのことはない、お釣りのくる婿は、船底枕を、「福」というものだと思っていた。

6. 夜這   |づもな||戻る|
 村でも一番だろうという、美人の娘がいた。ところが、父と母を見れば、鬼瓦を潰したような顔だったから、「掃き溜めに鶴ならぬ、鬼婆が小町を産んだ」と評判だった。
 娘が年頃になって、村の若者達は、若衆宿に集まると、「あのさ、誰が一番先に、あの娘をものにするか、競ってみよう」と言うが、鬼のような父が、いつも納戸の入り□に寝ているというので、なかなか果たせないでいた。
 ところがある時、遠くの従兄弟の娘のご祝儀で、父が出掛けることになった。「この時だ」と、一人の若者が、夜中に勇んで、娘の家に向かった。兄達から教えられたように、雨戸の敷居に小便を流して、音がしないように開けた。
 うまく納戸に入って、手探りしたが、その通り父は居なかった。「娘は、多分この奥の方だろう」と思って、手前の床を跨ごうとしたら、急に足首を押さえられて、床の中に引っ張り込まれた。なに、そしたら、引っ張ったのは、母のほうだった。
 こりゃ失敗したと思って、急いで逃げようとしたら、 「もう少し居ろ!」と、母が言った。若者はろくに褌も結ばず、素早く逃げた。翌朝、うこぎ(五加=若葉は食用、刺があり垣根として櫨える)の垣根に引っかかっていた褌を、母が見て「なーんだ、この染みは平蔵の伜か?」と言った。

7. 母心   |づもな||戻る|
 昔或る村に、アヤメとフキという、美人で双児の女の子がいた。年頃になったら、あちこちから「嫁にくれ」と言われた。いくら大百姓の家から話があっても、二人ともなかなか「行く」と言わなかった。
 母が心配して、「どうしていい話を断るのか」と聞いたら、二人とも「お母さんを見ていると、百姓の家に行きたくない」と言った。「でも、こんな田舎から、都へでも嫁に行くきか?」と、母親は困っていた。
 ある時、美人の双児の噂を聞いて、町から嫁に欲しいと、仲人する人があった。その話を聞いたアヤメとフキの二人は、「町へなら嫁に行く」となった。双児のせいで、一緒の花嫁行列は一里も続いた。
 嫁に出した母は、一息ついたが、それからというもの降っても照っても、心配が絶えなかった。雨が降れば「草履屋へ嫁に行ったフキは、商売どうだろう」と。天気が続けば「傘屋へ嫁に行ったアヤメは、商売になってるだろうか」と。
 あまりに心配が続くので、母は和尚様へ相談に行った。「百姓なら、降っても照ってもありがたいが、どうしたらいいでしょう」と聞いたら、「雨の時はアヤメよかったな、天気の時はフキがよかったと思えばいいでしょう」と、和尚が語った。

8. 美人布   |づもな||戻る|
 爺婆は、大変心配していた。どうしたことか、一人娘は年頃だというのに、なかなか婿の□も、嫁の□も掛からなかった。「誰のせいでもない、私達もその通りだものな!」と、わりと容姿の悪い、爺婆が顔を見合わせた。
 この娘ときたら、昼間は男まさりのくらい田畑で働くし、夕食後は、夜鍋と称して、キーパタ、キーパタと機織りしていた。ところがこの娘の機織りときたら、村でも一番と評判の腕だった。
 ある日朝から雨で、外仕事もできないと言うので、爺と婆は隣へ、お茶のみに行った。留守をしていた娘も、昨夜の続きで機織りを 始めた。いくらかすると、戸□に、びしょ濡れの乞食坊主が立っていた。気がついた娘は、「なんと坊様、そんなに濡れて」と言うと、「すまんが娘さん、顔だけでも 拭く、乾いた手拭いを貸して下さらんか」と言った。
 家の中を見渡しても、醤油が滲んだような手拭いしか無いし、と思った娘は、織っていた布の端を切って、「これで顔を、拭いて下さい」と、坊様に差し出した。
 坊様が顔を拭ったとたんに、雨が上がって、「娘さんありがとう。これからは、この布で顔を拭きなさい」と言って、行ってしまった。さあそれからというもの、毎朝顔を洗うたびに、その娘はどんどん美人になっていって、良く働く婿も来てくれた。

9. 瓜子姫   |づもな||戻る|
 昔あるところに、爺と婆が居た。畑作も良くて、大変みごとな真桑瓜を作ったので、二人で食べようということになって、二つに切ったら、中から可愛い女の子が出てきた。
 瓜からうまれたので、「瓜子姫」と名付けた。年頃になると、容姿もいいので、あちこちから、嫁にくれと言われた。
 ある時、爺と婆とが、そろそろ嫁入り支度もしなければと、町へ行くので、「誰が来ても戸□を開けるなよ。天邪鬼に食べられるからな」と、瓜子姫に言って出掛けた。
機を織って留守番をしていたら、「瓜子姫さん、ちょっこら戸を開けてくれ」と、女の子の声がした。瓜子姫は爺と婆に言われていたから、「だめです。開けられないです」と、機を織っていた。けれども、あまりにしつこく戸を叩くので、ちょっと戸を開けた。
 すると、いきなり入って来た天邪鬼は、瓜子姫を俎板に乗せて、切って食べてしまった。そして、しゃーしゃーと瓜子姫に化けて、知らんふりをしていた。
 いよいよ瓜子姫が、殿様のところへ嫁に行く日が来て、なんにも知らない爺と婆は、晴れ着を着せて、立派な駕籠に乗せてやった。途中で雀達が、「瓜子姫の駕籠に天邪鬼が乗った、天邪鬼が乗った」と、騒いだが、誰も気付かず、行列は城へ向かった。

10. お月お星   |づもな||戻る|
 お月お星という、仲の良い姉妹がいた。お月は先妻の子だ。たから、継母は、薪取りや、栗拾いにも、大変お月にいじわるをした。
 ある時父が、出稼ぎに行った留守に、継母はお月の寝床の上の、煤けた梁の上に、土臼を据え付けて、潰して殺そうとした。それを察したお星は、「お月姉さん、今夜は私と、一緒に寝ましょう」と言って、お月の布団には、大きな瓢箪を、入れておいたから、お月は助かった。
 継母は、今度はどのようにしてお月を殺そうかと考えて、「お月や、いい所へ連れて行くから、ここに入れ」と、唐櫃に入れて(紐で)結んで、山の奥の高い所へ背負って、穴を掘って埋めてきた。
 お星は、既に悟っていたから、唐櫃の底に穴を穿っておいて、「お月姉、この袋の中の種を、底の穴から、落として行って」と、内緒で渡した。
 春も次第に過ぎていくと、山の上まで、菜の花の道ができた。お星はそれを辿って、お月を助けて来ると、今度は二人とも釜茹でにされて、死んでしまった。
 出稼ぎから帰って来た父は、二人の娘が居なくなったと、六部(巡礼)になって「お月お星が居たならば、どうしてこの鉦を叩こうやー」と、娘探しの旅に出た。
 お月とお星を、夜の空に上げた仏様は、父を昼の空に上げたせいで、お日様の父は、毎日、娘達を追いかけているが、追いつかないのだ。

11. 元旦の雷風   |づもな ||戻る|
 地球が水の星だった頃の話だそうだから、とんでもなく昔の話だ。天の神様達が、この地球に、人の住める島を造ろうと相談したが、なかなか纏まらなか。た。
 プッツンと切れた若い神様は、理想郷を造ると、軽率に島を造ってしまった。ほかの神様達が怒って、地球にどんな島を造ったか来て見た。すると、盗みだとかテロだとか、騙したのと、争ってばかりいる島になっていたそうだ。
 若い神様も、「こりゃぁ、失敗したな」と思って、雷様に争う人間を、少し懲らしめてくれるように頼んだ。ところが、雷神は、見境無く空爆(落雷)をした。あわてた若い神様は「人間だって皆悪い奴ばかりでもないから、善悪をわきまえて雷を落としてくれ」と、雷神に頼みに行った。
 だが雷神は、サラ金にでも追いかけられてるかのように、あちこち逃げ回って、なかなか捕まえられなかった。
 空爆を始めたら、面白くて面白くて、雷神は中東やアフリカの方まで飛んでいって、なかなか居所がわからなかったが、年に一度だけ、元旦だけはどこに居たか分かったそうだ。
 元旦の風が吹いて来る方へ辿って行けば、その日ばかりは、どこに居たか分かった。元旦に吹く風は、雷神が年越しをした方から、ピューと吹いてくる。

12. 雷様の婿   |づもな||戻る|
 「働く婿は良い」とばかりも、言ってはいられない。働く婿は「雷避け」とも言われている。
 惣領は甚六(長男はお人好しで愚鈍)だったが、大変機敏で、働き振りのいい二男坊がいた。そのくらいだから、畑の実りも、どんどん成長した。
 「茄子に無駄花無し」と言うが、この二男坊の植えた茄子が、べろべろと伸びて、天辺の方は雲に届くように成長した。ある時、天辺の方の茄子を取りに登って行ったら、女房に逃げられた雷の親父と、雷の一人娘がいた。この雷の娘は、親父に似ず、可愛かった。
 雷の親父は、しょっちゅう雲の上から、この二男坊の働きぶりを見ていたから、娘の婿になってくれと頼んだ。
 誰とは言わないが、ご祝儀が終わって「角隠し」を取った途端に、鬼より太い角を出す嫁もいるようだ。ところが二男坊も働くし、いい男だったせいで、雷の娘の角も、しだいに小さくなっていった。
 「さぁ、今日も暑くなるし、忙しくなるからな」と、雷の親父の手伝いで、夕立を降らせていた婿殿は、いいところを見せようと頑張り過ぎて、雲の間から足を踏み外してしまった。それでも、桑の木に引っかかって助かったが、畑の茄子も無くなってて、天に帰れなくなった。
 雷の親父は、それからというもの、桑の木に雷は落とさないのだそうだ。クワバラクワバラ。

13. 蕎麦の茎   |づもな||戻る|
 米もろくに取れない所に、母と男の子二人が暮らしていた。父は早く死んでしまって、母は毎月夫の命日に、墓参りを欠かさなかった。
 すると鬼が、命日に待ち伏せをしていて、母を押さえて、食ってしまった。鬼は母の着物を着て、知らん振りをして、「今帰ったよ。お腹が空いたでしょう。すぐに炊事をするからね」。
 「今夜も、蕎麦粥か?」弟の方が待てなくて、台所の母の傍に寄っていったら、いきなり振り向いた母が、鬼の本性を現わして、弟を、あんぐりと食べてしまった。
 驚いた兄は、裸足で飛び出て、畑の中の一本杉に取り付いた。天辺まで登り詰めたら、鬼も登って来る。さて、どうにもならなくなってしまった。あと少しで、鬼に足首を掴まれそうになった時、天の方から、父に似た声で、「これに、掴まれ!」と、目の前に綱が降りてきた。兄は、一所懸命に登った。鬼も負けじと登ってくるが、どんな訳か、綱を手繰ると油が浮いてきて、我慢できなくなった鬼は、蕎麦畑に落ちて、死んでしまった。蕎麦の茎が赤いのは、鬼の血のせいだ。
 高野長英が、救荒二物考で、蕎麦を植えろと、本を書いたのは、やや一七〇年程前のことだが、蕎麦を食べれば、「難」から逃れることができると言う話だ。

14. 猿の嫁   |づもな||戻る|
 トラクターやコンバインなど、無かった頃のことだ。春になって、田畑が忙しくなると、体だけが動力だ。鍬を振ったり、牛の尻を叩いて、朝暗いうちから夕方暗くなるまで働いたものだ。
 「女の子だけ三人も居たところで、たいした力にもならない。婿でも来て働いてくれる者がいたら、どれだけ肋かるか」と、田の畔で、一服しながら、父は、独言を言っていた。
 すると、いつの間にか、父の傍に、一匹の猿が寄ってきて、「その話しは、本当か?、嘘でなければ俺が手伝うから、三人娘のどれか、嫁にくれな」と言った。
 猫の手も借りたい、ということがあるが、猫よりは、猿なら「猿真似」ということもあろう。見よう見真似で働くだろう。「先ず、仕事振りを見たら、娘をあげてもいい」と、父は約束した。するとこの猿は、中途半端な若者より、良く働いた。父は約束しなければよかったと思ったが、後の祭りだ。
 「誰が、猿の嫁になど、いやです」と、姉も中の娘も立腹したが、親孝行な末娘は「それではお父さんが困るでしょうから、私が嫁に行くから、餅を搗いて、臼ごと猿に背負わせてやって下さい」と言って、猿の家に向かった。
 途中の崖っぷちに、みごとな藤の花が咲いていた。「あの花を、髪に差したいから、猿殿、取って下さい」という娘に、猿は喜んで、枝の先の方まで行ったら、餅の入った臼を背負っていたので、谷に落ちて、嫁入りはおしまい。

15. 男石女石   |づもな||戻る|
 宇宙人だ、ミステリーサークルだのと言って、一晩に、畑の中や砂漠に、とてつもなく大きな絵が描かれているのを、テレビで見たことあるでしょう?。ところが、外国ばかりではなく、胆沢にもあった。
 芒の穂が出るようになると、毎年、ある野に太い幅と細い幅で、芒の倒れた道ができる。ところが、その二本の線は、幅が違うのに、どっちも真っ直ぐに来て、野原の真中で、ぴたっとつながっている。
 なんと不思議なものだというんで、誰の仕業か見届けようと、毎晩、二、三人でその野を見張ってた。昨夜も何も無い、今夜も何も無いって、とうとう満月の晩になってしまった。
 「ねえ、向こうから何か黒いものが来るぞ!」「「あれ! こっちからも小さい黒いものが、向こうへ行くぞ!」
 どんな化物が来たのかと、皆でドキドキしていた。すると、野原の真中で出会った黒い大きなのと、小さいのが、おもいっきり、ドカーン、ドカーンと、何度も何度もぶつかり合っていた。
 なんのことはない、黒い大きな男石と、黒い小さな女石と、一年に一回仲良くしていたというわけだ。気の利いた和尚は、二つの石の仲人をして、今では、衣川の或る寺に納まっている。

16. 大鯰の恩返し   |づもな||戻る|
 昔鴨を捕って暮らしていた、独り者の若者が居た。背は低いし、顔は醜いし、なかなか嫁も来なかった。
 カンカン日照りのある時、鴨猟を終えて帰る途中の、干上がった沼の草の上で、バタバタともがいている大鯰がいた。可愛そうにと思った若者は、水のある沼の真中まで、苦労して、その鯰を戻してやった。
 何日か過ぎると、沼の神様の伝言を持って、若者の家に、たとえようもない美女が、訪ねて来た。その美女はいつの間にか、若者の家に、住み着いてしまった。
 ところが、その娘の作るご馳走ときたら、非常に美味しくて、若者だから、初めは遠慮して一椀だったが、二日目には二椀、三日目には三椀、五日目には五椀と食べた。するとその若者は、ずんずん大きくな。て、容貌もいい惚れ惚れするような若者になった。
 ある時、どのようにして、あんなに美味しいご馳走を作るのかと、鴨猟に行く振りをして、娘の様子を見ていた。するとなんと、擂り鉢を、股に挟んで、ご馳走を作っていた娘の、顔は鯰だった。「私の姿を、見ましたね!」と、娘は沼の方へ走った。若者は、必死に掴まえようと、足に掴まったが、娘はぬるりと抜けて、鯰の姿で、沼へ帰ってしまった。

17. 蓬菖蒲   |づもな||戻る|
 今年は、阿弓流為が首を刎ねられてから、千二百年目だ。都の公卿達は、蝦夷は鬼だとか虎だのと、悪態をついていたそうだが―。
 婆に先立たれた、桶屋の爺が、あまり働けなくなったから、できればご飯を食べないような、後妻を欲しいと思っていた。それなりに仲人をする人があって、初めの婆より、容貌も良く歳も若い人を嫁にした。
 何日か経ったら、なぜか、米櫃の(米の)減り具合が早いと思って、町へ用足しをするふりをして、梁の上から見ていたら、後妻は、髪の毛を掻き分けて、頭の中へ、ご飯を掻き込む「山姥」だった。正体を見られた山姥は、爺を、桶に入れて連れて行ったが、なんとか逃れた爺は、蓬と菖蒲の中に隠れて、助かったと言う話しは、どこにもある。
 蛇の婿を貰った娘は、妊娠して、蓬と菖蒲の風呂に入って、子種をおろした話しもある。その外にも、人買いの家に行って働いていたら、その家は、買ってきた人を逆さに吊るして、人の油を取っていたから、恐くなって逃げた。すると鬼が追いかけてきたから、道端の蓬と菖蒲の、草叢に飛び込んだら、鬼は顔をめて戻って、助かったという話しもある。
 蓬や菖蒲というのは、ご利益があって、五月節句には、屋根に差したが、それがキリキリっと乾けば、好天が続くし、ダラーっとだらしなく乾けば、その年は、雨が多くなると言う。

18. 鬼の屁   |づもな||戻る|
 昔ったって、ごく最近の昔のことだ。赤い鳥居をくぐった奥の方に、和紙面を作る、おじさんがいた。そのおじさん、昔話が上手で、近所の子供達は、学校の帰りに寄っては、「ねぇ、今日もなにか、面白い話を聞かせてくれ」と、せがむ。
 ある時、例によって、子供達が寄った。「ねぇ・・・」と、子供達が声を掛けたら、後ろ向きになって、お面を作っていたおじさんが、いきなり振り向いたら、なんと、真赤な鬼の面を、かぶっていた。
 驚いた子供達は、皆縁側から叩き落ちた。恐る恐る縁側に寄った子供達に、お面をはずしたおじさんは、二タリと笑った。このおじさんの顔は、色白で、とてもいい男振りで、昔は、何人も村の娘を泣かせたということだ。
 「こっちへ来い」と言われて、腰の引けた子供達も、おっかなびっくり、縁側の縁に顔を出した。すると、また、後ろ向きになったおじさん、少し尻を持ち上げ、とてつもない屁を、子供達めがけて、ぶっ放した。
 顔をしかめた子供達に、今日の話は、「鬼が オナラをして 死んでしまった おしまい」だ。おっかなくて(鬼)、おかしくて(屁)、かなしい(死)話だ、と言った。

19. 鬼六と大工   |づもな||戻る|
 流れの速い川があった。いくら橋を架けても、すぐ流されてしまって、皆、困っていた。腕のいい大工に頼んだら、大工もその気になって、引き受けた。
 「誰が作っても流される。どんな橋にしようか」と、大工が川端で考えていたら、水泡の中から、急に鬼が出てきて、「大工、何を考えている?」と言った。大工は、かくかくしかじかだと語ったら、「この川に、流されない橋を架けれるのは、誰もいない。お前の目玉をくれるなら、俺が、橋を架けてやる」ということになって、承知することにした。
 次の日、川へ行って見ると、橋は半分架かっていた。又、次の日行って見たら、立派な橋が出来上がっていた。大工は、驚いて橋を見てたら、川の水泡の中から、鬼が出てきて、「早く、目玉をよこせ」と言った。
一寸待ってくれと、大工は山へ逃げていった。あてもなく歩いていると、山の奥の方から、子守歌が聞こえてきた。 「早く鬼六/目玉/持ってくれば/いいなぁ」と。
 川端に戻ってきた大工に、「俺の、名前を当てたら、目玉をよこさなくともいい」と、鬼は語った。大工は、わざと、いい加減な名前を並べたててから、最後に、大きな声で、「鬼六!」と叫んだら、鬼は、ポカッと川の中に、消えてしまった。

|ホーム| |目次|