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水高
狐と蛇

  1. 猪苗風呂
  2. 菊畑
  3. 狐汁
  4. 松笠の唄
  5. 狢と杣夫
  6. 蛇と餅
  7. 茅の中
  8. 騙された狐
  9. 蛇除け
  10. つつじ
  11. 蛇の祟り
  12. 蛇の子種


1. 苗代風呂   |づもな||戻る|
 姉の婚礼があるためで、三陸(海岸)へ、魚買いの用足しを言いつけられた弟は、帰りがけに、種山ケ原の姥石峠を下りてきて、「なんとか、狐に魚を盗られずに、無事にここまで帰って来たな」と、薄暗くなってから、自分の家の見える所まで来た。
 すると、なんだか家の周辺に、多くの人の出入りがあって、高張提灯なども見えてきた。「待てよ、姉の結婚式は、明後日のはずだな?」と、家の門口まで来たら、お化粧をした姉が、迎えに出てきて、「なんと遅かった。皆で、随分待ってたよ。もう結婚式は終わって、今、座直り(披露宴の後に、親戚、近所や裏方の手伝いを労う宴)をはじめたところだ。早く背負ってる魚をおろしなさい。風呂も沸かして準備しておいたから、その魚臭い衣装を脱いで、風呂に入って着替えなさい」と、着物を脱がせはじめた。
 「そんなこと言っても、俺が姉さんの婚礼日を間違えたわけでないし... なーんか、狐に騙されたようだな・・・」 「ぶつぶつ言ってないで・・・」と、姉から急がされた弟は、それでも、「いい湯だな」と、疲れをほぐしていた。
 夜の明ける頃に、「この!バカ者!」と、父の声がしたと思ったら、裸で、苗代に入っていた。

2. 菊畑   |づもな||戻る|
 あるところに、菊の花を咲かせて、人を騙す狐がいた。ある時、転んでもただでは起きないという爺が、町へ行く途中で、日向ぼっこをしている狐をみつけて、「お前達は人を騙して、食い物を盗るそうだが、何か残ってたら、俺にも食わせろ」と、欲深さをみせた。
 すると狐は、「あゝちょうどよかった。昨夜騙して盗った油揚げの残り、良かったら召し上がれ」と、ご馳走してくれた。−ふん、狐になどに騙される、愚かな奴もいたもんだ。俺は、その狐から頂戴したもの−。爺は、魚屋や豆腐屋でおかずを買いながら、自慢した。
 薄暗くなって、家に向かっていたら、一面菊の花が咲いている所へ出た。「なんとよく咲いてるな。誰かに取られないうちに、家の者を連れてきて皆取ろう。酢の物もいいが、たくさん取って、菊海苔にでもしよう」と、先ず、ひと背負い背負って、急いで帰って来た。
 「なあ! 皆で行こう! 立派な菊の花、俺がひと背負い取って来た」と、後ろ向きになって見せたら、婆が「何を抜かす! あんたの背負ってるのは、鉋屑だ! おかずはどうした!」と言って、炭の粉と塩を持って、菊畑へ走った。
 婆は菊畑で、「キジンカエレ キジンカエレ」と、三回唱えて、炭の粉と塩を撒いたが、魚も豆腐も、油揚げも無くなっていた。

3. 狐汁   |づもな||戻る|
 昔の、冬の仕事と言えば、内庭で筵や、俵編みなどをしていた。ところが、この辺の冬は長いし、若者達は、退屈する。「毎日、藁仕事ばかりも飽きるから、結い(共同作業)にするか」と言うことになって、十人程の若者が、次々と当番をして、藁仕事をした。でもすぐに飽きてしまう。
 「□も手も動かすのが、いやになったなぁ」「何か、面白いことでもないか」などと語っているうちに、「明日も、大変冷え込むそうだが、熱くて、うまいものを食いたいな」と、気が揃った。
 狸汁なら食ったことはあるが、「狐汁」というのは食ったことがないなということになり、「早く仕事をやめにして、狐狩りをしよう」「そうだな、この間も隣の爺が、魚屋の帰りに、狐に騙されされて、魚を盗られたそうだから、敵討ちをしよう」となって、大きな狐を、一匹捕まえてきた。
 その日の当番の家の婆に、狐汁を作ってもらっていたら、だんだんいい匂いがしてきた。「どれ、作った婆から、お毒味をするか」と、一ロ食べた婆が、とたんに「腹が痛い、腹が痛い!」と、とてつもなく騒ぎたてた。
 驚いた若音達は、狐汁を食わずに、あわてて帰ってしまった。皆、帰ったのを見届けてから、その家の婆、「さーて、誰も居なくなった。こんなに美味しいもの、たらふく食えるぞ!」と、箸とお椀を持って、にんまりと笑った。

4. 松笠の唄   |づもな||戻る|
 村でも評判の、良く働く若者が、いつものように畑から帰る途中、道路脇で、しゃがんでいる女に出会った。巡礼の姿をしているので、この辺の女ではないと思ったが、「どうしました」と、声を掛けた。すると、蚊の鳴くような返事だったが、「三日ほど何も食べてなくて…」と、顔をあげたら、とてつもない美人だった。
 独り者だから、ろくに食べる物もないがと、若者は自分の家に連れて行って、ご飯を食べさせた。すると、その女は、そのまま居着いてしまった。そのうちに、可愛い男の子が生まれた。
 ある時、村の寄り合いで、嫉妬気味の幼なじみに、「狐は、いくら上手に化けても、耳が立ってる」と言われて、若者はそれからうんと気をつけて、女房を見ていた。察しの早い女は、もうこれまでと覚悟して、子供はエジコ(嬰児籠)に入れて、置き手紙をして、若者が畑仕事に行ってるうちに、山の古巣へ、帰った。
 泣く子をおんぶして、若者は山へ追いかけて行った。すると、元の姿をした女が出てきて、「これからも泣かれたら、この松笠を、耳にあてがって下さい」と言った。それからというもの、子供が泣くたびに、その松笠をあてがってやると、ピタっと泣き止んだ。
 若者も、その松笠を、耳にあてがってみたら、女の声の、子守唄が聞こえてきた。

5. 狢と杣夫   |づもな||戻る|
 昔は雪のあるうちに、山の木を伐って、一年分の焚き物を用意した。冬の山で木を伐ったら、春になるまで待つ。その内に山の雪が溶けて、沢も川にも雪代水が、どんどん流れて来ると、「この時だ!」とばかり、伐りためて置いた木を、水の勢いにまかせ、里に下す。
 ある時、藩の御用薪の伐り出しを、命じられた人夫達が、川の両岸で、競って作業をしていた。里がいくら春めいたと言っても、奥羽山脈の根っこで作業をする人夫達は、まだまだ寒い。それに、山の中の仮小屋に、泊まっていての作業だから、楽しみと言っても何にも無い。
 毎日の作業が終われば、お燗をした濁り酒を飲むくらいしか、楽しみは無い。するとある晩、「なんとこんな雪の山になんで来たのか」と思うぐらい、美しい女が三人ほど来て、人夫達にお酌はする、踊りはおどるで、ずいぶんサービスをしてくれた。
 川向の人夫達も、吹雪であまりよく聞こえなかったが、「なんと賑やかで、女の声もするじゃないか?」と思ったけども、次の朝、川向は、働く気配も無いからと、行って見たら、皆、死んでいた。
 一人だけ、虫の息の男がいて、「どうした?」と聞くと、「狢が女に化けてきて、皆血を吸われた」と言って、こと切れた。
 「春木場」と言う所は、山から流してきた木の、揚げ場のあった所だ。

6. 蛇と餅   |づもな||戻る|
 大豆太郎と小豆太郎は、どっちも大変餅が好きで、いくら競争をしても、小豆太郎は、大豆太郎に勝てなかった。
 ある時、二人で山仕事に行ったら、とんでもない大蛇に出合って、二人とも逃げた。すばしこい小豆太郎は、木に登って助かったが、大豆太郎は逃げ切れず、大蛇に飲み込まれてしまった。
 大豆太郎を飲み込んだ大蛇は、フカフカと、苦しそうにしていたが、傍に生えていた黄色い草の実を食い始めた。するとみるみるうちに、大蛇の腹が小さくなって、大蛇は山の中へ、スルスルと行ってしまった。
 それを木の上から見ていた小豆太郎は、「これはいいもんだ」と、その草の実をもぎ取って帰ってきた。そして今年も、餅食い大会が始まったが、大豆太郎は大蛇に飲まれたから、黙っていても小豆太郎が優勝だろうということだが、周囲では、「それでも大豆太郎の五升餅は越えられないだろう」と言っていた。
 ところが始まってみると、小豆太郎の食べること食べること、べろっと五升餅をたいらげてから、あと一升も追い食いをした。周囲では、驚いた。死ぬような思いをして、小豆太郎は家に帰ってくるなり、例の草の実を食べて、’床に入った。翌朝になったら、小豆太郎は消えていて、布団の上に、六升の餅が、湯気を立てていた。

7. 茅の中   |づもな||戻る|
 親戚の古法事に呼ばれた親父が、家を出る時に、「あなた、いくら酒が好きだからって、法事なのだから、程ほどにして帰ってきなさいよ」と、嬶に言われた。
 そんなことを言われても、お膳に座ってしまえば、親父のことだから、すすめられるままに飲みはじめた。ご祝儀でもないから、もくもくと飲んでいた。
 和尚も帰れば、そろそろ(終わり)だなというので、皆も席を立った。親父も宴席料理や、引出物を包んでもらって、持っていった唐草の風呂敷を、片掛けにして、村のはずれまで来た。
 それにしても、少し飲み足りないと思って、いつも取り寄せている、酒屋の奥に入って、コップ酒を三つ四つグイッと呑んだ。「あぁ酔ったようだ。嬶に小言を言われないうちに帰ろう」と、酒屋を出た。
 なーに家までなら、すぐそこまでだと思って、片掛けに背負った風呂敷、緩んだまま、ゆーらゆーらと家に向かった。家の戸口まで来て、「嬶、なんだか蚊がうるさいから、蚊帳を吊れ」と言って、カヤの中に入って眠ってしまった。
 目がちかちかするほど痛いな、と思って目を覚ましたら、頭の上で、太陽がぎんぎん照っていた。なんだか蚊に刺されたようだと、額を掻きながら起きてみると、なんのことはない、茅の株の中に寝ていて、料理は無くなっていた。

8. 騙された狐   |づもな||戻る|
 ご祝儀の帰りや、町用足しの帰りの爺達を騙して、魚にありついていた狐も、だんだん寒くなってきて、思うように騙して魚を盗れなくなってきた。ところが、川向にいたが獺が、毎日川に潜って、魚を捕るのを見ていた狐は、あいつを騙して魚を盗ろうとした。
 「なぁ、獺や! 退屈だから、振舞でもしようよ」と声を掛けて、交互にご馳走することにした。魚を持ってきて、狐にご馳走した獺は、明日は俺がご馳走になれるな、と、狐の所へ行ったら、毎回手土産の魚だけは、獺から取り上げて、「今日は天守りだ、今日は地守りだ、今日は神様から四方守りを言いつけられた」だのと、さっぱり獺に、ご馳走する気が無かった。怒った獺が声を荒げたら、俺もなんとかお前にご馳走したいから、川魚取りを教えてくれ、と言った。
 獺は、この時とばかり、狐を懲らしめるように仕向けた。狐は氷の張った川の、真中あたりに、穴を掘って、自分の尻尾を突っ込んで、待っていたが、しびれるほど冷たかった。それでも欲で、一寸引っ張ってみたら、抜けないほど重かった。
 「魚よ、もっとくっつけ!」と、もっと欲張って朝までやっていたら、尻尾が凍りついて、抜けなくなって、騙された爺達から叩かれた。でも、可愛そう、と思った獺は、そのあと狐を助けてやった。

9. 蛇除け   |づもな||戻る|
 鼻の下の長い男も、いやだが、長いものと言えば、蛇の好きな人もあんまりいないだろう。「長いものに巻かれろ」と言うのも、なんだか、いやなもんだ。
 暖かくなってきて、「やーいや、何か月も寝たな」と、蛇が、穴から出てきた。ポカポカと暖かいから、まだ寝不足の蛇は、若草の上でうたたねをしていた。
 萱の芽も、「あー、寝た寝た」と、つんくつんくと伸びてきた。「なんだか、寝返りもできなくなったな」と、蛇が目を開けてみたら、萱の芽が、蛇の体をぶっ通していたから、蛇は動けなくなった。「誰か、助けてくれー!」と叫んだら、蕨がむくむくと生えてきて、蛇の体を持ち上げて、助けてくれた。
 それからというもの、蛇は萱の中に入って来なくなった。恩のある蕨のそばにいて、誰か蕨とりに行くと、手元のそばに、ニョロリと出たりする。そんな時は、おまじないを唱えれば、蛇は、逃げていく。
 「蛇や蛇、萱畑に昼寝して、蕨の恩顧忘れたか、アブラウンケンソワカ」 「蛇居た、ガサガサ、花淵善兵衛様の、お通りだ」
 花淵善兵衛というお方は、留守の殿様の家臣で、不思議なおまじないをした。蛇に噛まれたりしたら、善兵衛様からお札をいただいて、噛まれた所を(その札で)撫でると、すぐ治った。水沢の競争馬が、蛇に噛まれた時も、そのお札で、助かったそうだ。

10. つつじ   |づもな||戻る|
 昔は百姓をするところでは、馬や牛などの生きものを飼っていたから、それに餌を食わせるのに、朝露のあるうちに、鎌を持って草刈りに出たものだ。
 ある時一所懸命な若者が、朝草刈りに出た。せっせと刈っていると、鎌の先にガツンと何かが当たった。石のようでもないが、鎌の刃が、こぼれたのではないかというような、手応えだった。
 その内に、草がゆっさゆっさと動くので、何だろうと見ていたら、丸太のような大蛇が出てきた。若者は恐ろしいばかり恐ろしくて、目を閉じて、やたらと鎌を振り回しているうちに、まぐれで大蛇の首をもぎとってしまった。
 助かったと思ったのも束の間で、首の無くなった大蛇が、それでも若者に向かってきた。蛇の生殺しということがあるが、恐くなった若者は、船に乗って、北上川を渡ったが、首の無い大蛇が、ありもしない鎌首を持ち上げて、川の中も追ってきた。
 どうにもならなくなった若者は、束稲山(前沢町)のブナの木によじ登ったら、首の無い大蛇も、ニョロニョロと登ってきた。「もう駄目だ」と思っていたら、大蛇の重みでブナの木が倒れて、若者は、元の草刈場まで振り戻され、大蛇は千切れて、束稲山に散った。
 それからというもの、ツツジは赤く咲くようになった。

11. 蛇の祟り   |づもな||戻る|
 「蛇の生殺しは後難がある」と言うわけでも無かっただろうが、たまたま田の畔で、驚くような大蛇と出合ったから、持っていた草刈り鎌で、恐いのも半分手伝って、三つに切って殺してしまった。
 この蛇を切った親父には、たまたま、どういうわけか、子供ができなかった。夫婦同士で「お前が悪いんだろう」とか、周囲からは「仲が良過ぎて出来ないのか」だのと、からかわれていた。
 ところが、この親父が蛇を切ってから、不思議に、と月とう日経ったら、元気のいい家督が授かり、次の年も男の子、次の年は女の子と、三年続けて年子に恵まれた。夫婦は喜んで、三人の子を、可愛がって育てた。
 三人の子は、次第に年頃になって、そろそろ嫁をもらおうか、嫁に出さねばと思って、大変楽しみにしていた。ちょくちょく、そんな話も出始めた頃、間の悪い時は間が悪いもので、百日咳だ、腹痛だと、あっと言う間に、三人の子を亡くしてしまった。
 夫婦は、なんとかして死んだ子に会いたいと思って、七月二十日に、青森の恐山の大祭に行ってみた。よく当たると言う評判の巫女が、「花の座敷も飾らずに(結婚式もしないで、と未婚者への常套句)どんなにくやしかったか…」と拝み始めて、最後に、「あの子達は、あんたが三つに切った大蛇の化身だ」と、語った。

12. 蛇の子種   |づもな||戻る|
 蕗のとうが盛んに出てくる頃の夜、娘の部屋から、何かコソコソと話す声が聞こえてきた。自慢じゃないがミス○○位の娘を持った母は、夜這いではなかろうかと、少し心配をした。
 すると、毎晩のように、娘の寝室から、コチャコチャと聞こえて来るので、母はとうとう我慢出来ず、娘を問い詰めた。娘は、恥ずかしがりながら、美男子が、床に入ってくると言った。
「それで、どこも何でもないか?」 「私、あの男が好きだけど、少し冷たい体なの」 「あゝ、それで分かった! 今晩来たら、その若者の着物の裾に、この長い糸を縫い付けておきなさい」
 その若者は、後ろ髪どころか、裾を引っ張られるようにして帰った。サァといって、夜明けを待たず、母と娘は、糸を手繰って、どこまでも行った。
 糸は、林の中の小さな穴に入っていて、中から声が聞こえてきた。 「針など刺されてみろ、そこから腐って死んでしまうぞ!」 「なーに、あの娘だって死ぬさ、(俺が)千匹の子種を宿してやったから。でも、蓬と菖蒲の風呂に入られたら、千匹の子種も終わりだなー」
 その娘は、蓬と菖蒲の風呂に入って、難を逃れた。

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